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あなたも名監督

2016.06.20日

NHKの連続テレビ小説、別名朝ドラの『とと姉ちゃん』が、スタート以来ずっと視聴率20%以上をキープしているということです。
人気の秘密はおそらく、ごく普通の人たちが主人公で、彼らの日常生活の中のありきたりな場面が描かれているところにあるのではないかと私は思っています。
普通、人気のある番組はドラマチックなものなのですが、逆にこの日常性に視聴者は親近感を覚えているのではないでしょうか。


『とと姉ちゃん』を見ていて、もうひとつ感心するのは監督の腕です。
非常に細かいところまで行き届いているのに驚かされます。
5年前に書いた「アカデミー監督賞」の記事を思い出し、今日はそれをシェアさせていただくことにしました。


私は小学生の頃、劇団に入っていてテレビや舞台、映画に子役で出演していました。
このとき私に回ってきた主役の連続ドラマは『スーパーお姉さん』という番組でした(「何事も一生懸命」)。
当時はアメリカのスーパーマンというテレビ番組が子どもの間だけでなく大人の間でも大人気で、私のお気に入りの番組でもありました。
それで『スーパーお姉さん』の主役ということでとても興奮しました。きっと日本版スーパーマンみたいな番組だろうと大いに期待したわけです。


一番最初の出演者とスタッフの顔合わせ、そして台本の読み合わせで大阪の毎日テレビのスタジオに行った時のことです。
簡単な自己紹介の後、出演者一人ひとりに台本が配られました。
そして怖そうな顔をした細身で神経質そうな感じのディレクターがみんなに指示を出しました。
「皆さん、台本を開いてください。今からこの台本のセリフを大きく変更します。自分の台本に朱を入れてください」
そう言うと、ほとんど全部のセリフに訂正を入れ始めました。


ストーリーは、私の住んでいた家の隣にスーパーお姉さん一家が引っ越してきて、挨拶に来るところから始まります。
スーパーお姉さんの自己紹介のところで、次のようなくだりがありました。
「私はこんなこともできるし、あんなこともできる。戦車だって操縦できる」
ディレクターはこれらを全部カッとしてしまい、ほかの言葉に変えてしまいました。
私がイメージしていた「スーパーマンの日本版」がすっかり消えてしまったのです。正直、がっかりするとともにこのディレクターをちょっと恨みました。
「この怖いディレクターのせいで、せっかくのスーパーお姉さんがすっかり平凡なつまらないものになってしまう」


ところが回が進むにしたがって、徐々にこのディレクターの意図が分かるようになってきました。
どのエピソードも日常茶飯事の出来事の中で小さな事件が起こり、それをスーパーお姉さんと少年ケンちゃん(私)が一緒に解決していくという内容です。
たとえば、お姉さんと私が暗い夜道を家に向かっているとき、あとをつけてくる不審者がいます。
私たちは怖くてドキドキしながらその不審者をまこうとして走ったりするのですが、コツコツコツという足音がずっとつけてきます。
それで思い切って角を曲がったところで隠れて、その不審者が来たところを捕まえたところ、なんその人はと私たちの隣の家に用事があって、タバコ屋さんで私たちのあとについて行けばいいと教えられついてきていたというオチがついているわけです。


途中からディレクターは二人体制になって、優しい女性のディレクターが加わりました。私はこのディレクター、本間さんが大好きでした。
でも、あとになってこの鬼ディレクターの良さが分かるようになりました。
もしも、脚本が書き換えられないままでスタートしていたら、『スーパーお姉さん』はすぐに頓挫(とんざ)していたことでしょう。


最近、NHKの大河ドラマ「江」や「仁」、「渡る世間は鬼ばかり」、「BOSS」、「幸せになろうよ」等などさまざまなドラマを見ていてつくづく感じるのは、脚本や俳優以上に監督の役割の大きさです。
同じ脚本で、同じ俳優が出演していても「監督」の力量ひとつで作品の出来栄えは天と地ほどの差になります。


このときひらめきました。
私たちの人生も同じではないか。
監督はストーリーを変えることも、俳優のキャラクターを変えることもできる。
同じ素材が与えられていても、監督は活かすも殺すも自由です。
ドラマを面白くするのもつまらなくするのも監督です。
そして、私たち自身の人生という一大ドラマの「監督」は私たち自身なのです。


あなたの人生の「アカデミー監督賞」はあなたに授与されます。


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