学院長元気の出るブログ

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ジョージ学院長 元気の出るブログ

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国語の面白さ

2016.06.01日

 わたしは、外国人に日本語を教えるという仕事をしている。最初は、日本語ができるのだから簡単な仕事だと思ったのだが、やっていけばいくほど、そんなに簡単な仕事ではないということに気づかされた。日本語を初めて勉強する外国人の気持ちになって、自分たちが当たり前だと思っていることについて、もう一度考え直すことをしなくてはいけなかったのだ。外国人に日本語を教えるときには、日本人が状況に応じてどんな言葉を使うのかということを示すことが大切だったのである。
 あまり意識されないことなのだが、わたしたちは、普段さまざまな日本語を使い分けている。
 子どもがとても小さいときには、一種類の言葉しか使えない。
 オママゴトというのは、学齢期前ぐらいにするようになる遊びだが、子どもが社会的な能力を身に付けていく遊びとして、近年注目されている。また、どんなに方言の強い地域であっても、オママゴトをするときには、たいてい共通語が使われるということが発見されている。
「おとうさん、お帰りなさい。」
「うん、今帰った。」
 というような言葉づかいを子どもたちはオママゴトでしているが、かれらの両親がそう言って家に帰っているとは思えない。かれらは何かをまねているのだが、それは、家庭の日常ではなく、テレビやマスコミの中での「標準的社会」のようなものを模倣しているらしい。そのようにして、子どもは自分の普段使っている言葉以外の言葉づかいを身に付けていく。そうして、友達に使う言葉、親に使う言葉、小学校に上がって先生に使う言葉の使い分けができるようになる。大人はさらに細かくなる。
 日本語は、一つではなく、さまざまな種類の言葉の束のようなものであると考えられている。その全体が日本語なのである。
 日本語といってもさまざまにあるので、たった一つの正しい日本語というのは、実は存在しない。ある場面、ある人に対しての、適切な言葉づかいというのはあるのだが、どんな場面でも使える万能の「正しい日本語」というものはない。テレビのアナウンサーの使う言葉が正しい日本語であると思われるかもしれないのだが、あの調子で家族間の会話はできない。
 さまざまな適切な言葉の全体が、正しい日本語と言えば言えるかもしれない。ある場面での適切な言葉づかい、つまり、その場面でだけの正しい日本語を決めるのは、だれとどんな場面で、どんなことを、何のために話しているのか、というようなことであると思われる。
 たとえば、敬語というのは、こうしたたくさんの日本語の中の一つである。目上の人には敬語を使わなければならないと教えられている。いかにも正しい日本語のようなのだが、敬語を使うことと、それが相手に感じのよい印象をあたえるかどうか、適切な言葉であるかどうかは、実は別の話なのだ。
 やたらていねいな言葉使いをされても、なんだか気取って聞こえて、ちっともうれしくない、というようなことがある。敬語というのは、人間関係を穏やかにしていくための言葉使いの工夫である。状況に応じて、その場に合った言葉使いを選ばなければならない。そうやって、相手と気持ちのよい関係を作っていくのである。
 適切で、相手に良い印象をあたえる言葉、それが正しい日本語なのだ。

(「金田一秀穂の文章より」−小学5年生の国語の問題文より抜粋)


これは1か月ほど前、小学5年生に国語の授業をしていたときに扱った問題文です。
5年生にとっては結構難しい文章です。
筆者の金田一秀穂さんは皆さんよくご存じ、最近はテレビのクイズ番組やバラエティ番組にも出演していらっしゃり、その人懐っこい笑顔や話し方ですっかりお茶の間の人気者です。
かのアイヌ語の研究で有名な言語学者金田一京助氏のお孫さんで、国語学者です。
京助氏の息子さん、すなわち秀穂さんのお父さんは私の大学時代の恩師の金田一春彦氏。
12年前に91歳でお亡くなりになりましたが、春彦氏もテレビの「笑っていいとも!」やワープロのCMなどに出ていらっしゃいました。
大学時代はとても可愛がっていただき、大変お世話になりました(「言葉遣い」)。
大好きな、そして心底尊敬していた立派な学者・研究者であり、また良き教師で、毎回の授業に魅了されていました。
金田一秀穂さんは私より3歳年下で、当時春彦先生は私に秀穂さんのことを話してご相談していらっしゃったのです。


そんなつながりがあるので、よけいに秀穂さんには親しみを覚えます。
その秀穂さんの文章が使っているテキストに引用されているとは予想だにしませんでした。
しかも、外国人に日本語を教えるという私と同じ経験をしていらっしゃり、書いていらっしゃること一つひとつに共感を覚えるのです。
なんと不思議な巡り合わせ。
この文章を使って子どもたちに教えながら、言語の面白さ、楽しさ、奥深さに酔いしれていました。


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